自治体DXの課題を調べると、出てくる答えはだいたい同じです。人材不足、予算不足、アナログ文化、縦割り。
どれも本当のことです。ただ、この4つを担当者が受け取っても、明日やることは1つも決まりません。「人を増やしてください」「予算をつけてください」と言える立場なら、とっくに言っています。
この記事は、その一段下の話をします。総務省の最新データを見ると、止まっている場所はもっと手前にあり、そこは人も予算も増やさずに動かせることが多いからです。
結論|止まっているのは「実行」ではなく、その手前の3つが空白だから
先に結論を置きます。自治体DXが止まる典型的なパターンは、次の3つが埋まらないまま実行に入ってしまうことです。
- 全体方針がない(何のためにやるのかが文書になっていない)
- 担当が置かれていない(兼務・0〜1人で、誰の仕事か決まっていない)
- 前任者がやったことが残っていない(異動のたびにゼロから)
この3つが空白のまま個別のツール導入を始めると、入れた後に必ず戻ってきます。「なぜこれを入れたのか説明できない」「担当が異動して誰も更新しない」「次の予算要求の根拠が作れない」という形で。
そして重要なのは、この3つは人も予算も増やさずに埋められるということです。むしろ、埋めないまま外注を増やすと状況は悪くなります(後述)。
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まず現在地|「全国的に遅れている」ではなく、規模で分かれている
課題の話に入る前に、事実を確認します。総務省の自治体DX推進計画【第5.1版】別紙1に載っている令和6年度(各年度4月1日時点)の数字です。
| 項目 | 全自治体 | 都道府県 | 指定都市 | 特別区 | 市 | 町村 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 全庁的・横断的な推進体制を構築 | 69.5% | 100% | 100% | 87.0% | 82.5% | 56.0% |
| DX推進専任部署を設置 | 55.7% | 100% | 100% | 91.3% | 76.2% | 34.6% |
| DXを推進するための全体方針を策定 | 61.2% | 100% | 100% | 95.7% | 82.3% | 40.0% |
(出典:総務省「自治体DX推進計画【第5.1版】」別紙1。もとデータは総務省「自治体DX・情報化推進概要(令和6年度)」)
読み取れることは2つです。
1. 都道府県・指定都市は、体制の面ではもう課題が違う段にいる。 3項目とも100%です。ここでの課題は「体制がない」ではなく「作った体制が回っていない」という次の段の話になります。
2. 町村では、そもそもの前提が揃っていない団体が半分近くある。 専任部署34.6%、全体方針40.0%。「進まない」のではなく、まだ「始める形」が作られていない、というのが実態に近い表現です。
自治体DXの課題を語る記事の多くは、この差を平らにして「自治体は」と書きます。ただ、専任部署のある政令市の担当者と、情報政策を1人で兼務している町の担当者では、次にやるべきことがまったく違います。以下は、後者に近い状況を前提に書きます。
詰まり1|「人が足りない」の中身は、たいてい「担当が置かれていない」

いちばん多く語られる課題が人材不足です。ただ、総務省の集計にはもう少し具体的な数字が載っています。
DX推進担当課室・情報政策担当課室の職員数が0人又は1人の市町村は189自治体で全自治体の11%である。
(総務省「自治体DX推進計画【第5.1版】」3(2)デジタル人材の確保・育成、注:総務省「自治体DX・情報化推進概要(令和6年度)」集計データ)
189自治体、全体の11%。 ここで起きているのは「専門知識を持った人がいない」ではありません。その業務を担当する人が組織図の上で決まっていない、という状態です。
この2つは混同されがちですが、対処がまったく違います。
| 状態 | 必要なこと |
|---|---|
| 担当が置かれていない | 兼務でよいので、誰の仕事か決めて文書に書く。予算はかからない |
| 担当はいるが知識がない | 育成・外部人材・共同調達など。時間かお金がかかる |
順番を逆にすると効きません。担当が決まっていない状態で研修を入れても、受けた人が異動すればそれで終わりです。
先に決めることは3つだけです。
- DXの企画立案と部門間調整を、どの課の誰がやるのか(兼務可)
- その人が使ってよい時間は、週あたり何時間か
- 判断に迷ったとき、誰に上げるのか(決裁のルート)
見落とされやすいのが3番目です。担当は決まったが決裁のルートが決まっていないと、担当者はすべての案件で「これは誰に聞けばいいのか」から始めることになり、それだけで時間が溶けます。
詰まり2|全体方針がないまま、個別のツール導入から始まる
全体方針を策定している自治体は全国61.2%、町村40.0%です。逆に言えば、4割の自治体が方針なしで個別の取組を進めています。
方針がないと何が起きるか。よくあるのは次の形です。
- ある課がチャットボットを入れる。別の課がRPAを入れる。それぞれ単体では成果が出る
- しかし全体としてどこに向かっているかが誰にも説明できない
- 次の予算要求で「今年は何をやりますか」と聞かれ、根拠が作れない
- 担当が異動する。後任は、なぜこれらが入っているのかを知らない
総務省の「自治体DX全体手順書」の手順は、ステップ0:認識共有・機運醸成 → ステップ1:全体方針の決定 → ステップ2:推進体制の整備 → ステップ3:DXの取組みの実行の4段です。国の手順書自体が、実行は4段目だと言っています。
ただし、立派な計画書を作れという意味ではありません。 総務省は全体方針を「DX推進のビジョン及び工程表から構成されるものであり、計画を含む」と定義しています。つまり必要なのは、
- ビジョン:何のためにやるのか(住民の待ち時間か、職員の残業か、窓口の集約か)
- 工程表:いつ何をやるのか
の2つです。A4で数枚から始めて構いません。方針がないことより、方針を作るのに1年かけることのほうが害が大きい、という順序で考えたほうが動き出せます。
詰まり3|異動で3年ごとにゼロに戻る

自治体特有の、そして民間のDX論がまったくカバーしていない構造です。人事異動は制度なので、なくすことはできません。なくせない前提で、残る形にするしかありません。
「引き継ぎを丁寧にする」では足りません。引き継ぎ書は読まれないか、読まれても判断の理由までは書かれていないからです。残すべきなのは、次の3つです。
1. 決めたことと、その理由をセットで残す<br>「Aを採用した」だけでなく「BとCも見たが、Xの理由でAにした」まで書く。後任が同じ検討を最初からやり直さずに済みます。
2. 手順を、人ではなくファイルに置く<br>「田中さんに聞けばわかる」を「このフォルダを見ればわかる」に変える。ここでいちばん効くのは、やり方を書いた文書を、そのやり方を実行する場所と同じところに置くことです。共有フォルダの奥深くにあるマニュアルは、存在しないのと同じです。
3. 「使っているツールの一覧」を1枚で持つ<br>どの課が何を、いくらで、いつまでの契約で使っているか。これがないと、後任は契約更新の連絡が来てはじめてその存在を知ることになります。
この3つは、外注では作れません。外部の事業者が納品するのは成果物であって、庁内の判断の履歴ではないからです。ここだけは職員の手で残す必要があります。
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詰まり4|標準化と同時進行で、現場の手が空かない
2026年時点で見落とせないのが、基幹系20業務の標準化です。総務省の計画には、こう書かれています。
2025年(令和7年)12月末時点で標準化に必要な作業手順の77.1%が完了する(全市区町村ベース)
事業者のリソースひっ迫による開発・移行作業等の遅延の影響により令和8年度以降の移行とならざるを得ない団体数は、2025年度(令和7年度)10月末時点で1,788団体のうち743団体(41.6%)に達しており、令和8年度以降も引き続き多くの自治体において移行作業が継続する見込みである。
(総務省「自治体DX推進計画【第5.1版】」5. おわりに)
4割超の団体が、令和8年度以降も標準化の移行作業を続けます。 そして遅れの理由として計画が挙げているのは、自治体側の怠慢ではなく事業者のリソースひっ迫です。
これが現場に効いてくるのは、次のような形です。
- 情報政策担当の時間が、標準化の対応でほぼ埋まる
- そこに「フロントヤード改革も」「AIも」「セキュリティ方針の策定も」が同時に降ってくる
- 令和8年度からは、改正地方自治法によりサイバーセキュリティ確保の方針策定が義務づけられている
「進まない」のではなく、同じ人が同時に3つ持たされている、という状況です。ここで有効なのは、進捗を上げる工夫ではなく、順番を決めて庁内で合意することです。
現実的な仕分けの基準は、次の3段です。
| 優先度 | 中身 |
|---|---|
| 1. 法令上の義務があるもの | 標準化、令和8年度からのサイバーセキュリティ方針の策定 |
| 2. 年次が示されているもの | デジタル人材の確保・育成に係る方針(令和9年度まで) |
| 3. 技術的助言(自団体の判断で順番を決めてよい) | 重点取組事項のうち上記以外 |
自治体DX推進計画そのものは、地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言です。計画に載っているすべてが同じ強さの要請ではありません。この仕分けは、庁内で「なぜ今これを後回しにするのか」を説明するときの根拠になります(詳しくは自治体DX推進計画の解説)。
詰まり5|外注を増やすほど、判断できる人が庁内に残らなくなる

自治体DXの課題を扱う記事の多くが、解決策としてBPO・アウトソーシング・外部人材の活用を挙げます。それ自体は正しいし、総務省の計画も、高度専門人材については「内部に適切な人材がいない場合には、外部人材の活用を積極的に検討すべきである」と書いています。
問題は、外注する範囲の切り方です。「作業」を外に出すのは有効ですが、「判断」まで外に出すと、次の年に自分たちで決められなくなります。
具体的には、次の線が現実的です。
| 外に出してよい | 庁内に残すべき |
|---|---|
| システムの設計・構築・保守 | どの業務から着手するかの順番 |
| データ移行などの実作業 | 何を成果とみなすかの定義 |
| 高度に専門的な技術判断(CIO補佐官等) | 契約とツールの全体像の把握 |
| 定型的な事務処理のBPO | 決めたことと理由の記録 |
計画も、CIO補佐官等について「大所高所からの助言を行う人材のみならず、具体的な取組における実務を行う人材を確保していくことも重要」としています。外部の助言者だけ置いて、庁内に手を動かす人がいない状態が、いちばん止まります。
なお、外部人材を入れる場合の制度は用意されています。
- 市町村がCIO補佐官等として外部人材の任用等を行う経費・募集経費には、特別交付税(措置率0.7)の財政措置がある
- CIO補佐官等として外部からデジタル人材を任用等している市区町村は、2024年4月時点で267自治体
- 都道府県が「自治体DXアクセラレータ」を中心に、市町村支援のためのデジタル専門人材のプール機能を確保する取組が進んでいる。2025年度中に全ての都道府県で市町村と連携した推進体制を構築する目標が置かれている
- 業務の内容や量によっては、都道府県や他の市町村と共同で人材を確保する/他自治体との兼務を前提に任用することも計画に明記されている
特に最後の点は、小規模団体にとって現実的な選択肢です。1団体では雇えなくても、複数団体で分ければ届く場合があります。AIの専門知見が要るCAIO補佐官については、計画自体が「一部の大都市を除けば人材確保が困難と見込まれるため、都道府県や他の市町村と連携した人材確保を積極的に検討すること」を挙げています。
外注を増やさずに進めるための、現実的な順番
ここまでを、明日から動ける順番に並べ直します。予算措置が要るものは1つもありません。
ステップ1|担当と決裁ルートを文書にする(1週間)<br>兼務で構いません。誰が、週何時間、誰に上げるのか。この3つを紙に書いて共有するだけです。
ステップ2|1つの課の業務を棚卸しする(2〜4週間)<br>全庁でやろうとすると始まりません。窓口が忙しい課を1つ選び、「何の作業に、月何時間かかっているか」を並べます。数字は職員の申告ベースで構いません。精度より、俎上に載ることのほうが大事です。
ステップ3|全体方針を、A4数枚で作る(1ヶ月)<br>ビジョン(何のためか)と工程表(いつ何を)の2つ。ステップ2の棚卸しがあるので、工程表に具体名が入ります。
ステップ4|「残る形」の器を先に作る(並行)<br>決定の記録、手順書の置き場、ツール一覧の3つ。取組を始める前に器を作っておかないと、後から遡って書くことになります。
ステップ5|1業務だけ変えて、結果を測る(3ヶ月)<br>ステップ2で洗い出したもののうち、いちばん時間を食っていて、かつ個人情報の扱いが軽いものを1つ選びます。ここで初めてツールの話が出てきます。
ステップ6|職員の側の底上げに入る<br>1業務で結果が出てから研修に入ると、参加者の受け止めが変わります。「なんとなく便利らしい」ではなく「あの課でこう変わった」から始められるからです。総務省の計画も、一般行政職員のリテラシー向上に加えてDX推進リーダーの育成を挙げ、管理職向けの意識改革研修と担当職員向けの実践的な研修を、悉皆研修と選択別研修を組み合わせて職員研修体系に位置づけることを求めています。
ステップ6については、自治体・教育機関向けの研修メニューと予算の立て方をこちらの記事にまとめています。費用の考え方はAI研修の費用を参照してください。
よくある質問
Q. 「アナログ文化が根強い」という課題は、どう扱えばよいですか。<br>文化そのものを変えようとすると時間がかかります。実務的には、文化の問題として扱うより「その業務が紙である理由」を1つずつ確認するほうが早いことが多いです。法令で紙が求められているのか、様式の慣行なのか、単に見直されていないだけなのか。3つ目であることが少なくありません。
Q. 首長や議会の理解がないと進みませんか。<br>総務省の全体手順書がステップ0を「認識共有・機運醸成」に置いているとおり、トップの関与は重要です。ただし理解を待つ必要はありません。1つの課の棚卸しの結果(月何時間かかっているか)を持っていくほうが、理解を求める説明より早いことが多いです。デジタル庁の「自治体DXの取組に関するダッシュボード」で近隣団体との比較を示すのも、議会説明の材料になります。
Q. 小規模団体は、大きな自治体の事例を真似ればよいですか。<br>計画自体が「単に他自治体の事業をそのまま模倣して導入するのではなく、他自治体の取組も参考にしつつ、どのような取組が自団体において必要か積極的に検討していただきたい」と書いています。事例の数字を自団体に当てはめてよいかの見分け方は、自治体の生成AI活用事例で扱っています。
Q. 生成AIを入れれば、人手不足は解決しますか。<br>解決はしません。総務省の集計では、AIを導入した市区町村(その他市区町村)は令和4年度44.8%→令和6年度57.9%と増えていますが、導入したこと自体が成果ではありません。どの業務のどの工程を置き換えるかを先に決めていないと、契約だけが増えます。庁内での進め方は自治体の生成AI活用にまとめています。
Q. 何もかも足りない状態で、最初の1つを選ぶなら何ですか。<br>「担当と決裁ルートを文書にする」です。予算も人も要らず、これがないと他のすべてが個人の善意で回ることになるからです。
まとめ
- 自治体DXの課題は「人・予算・文化」で語られがちだが、動かせるのはその一段下にある
- 担当が0〜1人の市町村は189自治体(全体の11%)。 これは知識不足ではなく、担当が置かれていない状態
- 全体方針がない自治体は約4割(町村では6割)。方針なしで個別導入を始めると、必ず戻ってくる
- 異動は制度なので、なくす前提を置かない。 決定と理由、手順の置き場、ツール一覧の3つを庁内に残す
- 4割超の団体が令和8年度以降も標準化の移行作業を継続する。同時に3つを持たされている前提で、義務・年次あり・技術的助言に仕分けて順番を決める
- 外注は「作業」まで。「判断」を外に出すと翌年決められなくなる
まずは、DXの担当と決裁ルートを1枚の文書にするところから始めてください。予算措置は要りません。
自治体DXの全体像は親記事の自治体DXとは、国の計画の中身は自治体DX推進計画の解説にまとめています。
まずは30分、無料の個別相談で整理しませんか
30分・無料・オンライン可・売り込みなし。気になっている業務を3つ挙げていただき、その場で「AIに置き換わる/半分楽になる/向かない」に仕分けしてお持ち帰りいただきます。
テレビ・新聞で取り上げられました
