「うちも生成AIを入れたほうがいいのか」。庁内でこの話を持ち出すとき、いちばん効くのは意見ではなく、国が示している方針と、他の自治体が実際にどうしているかという数字です。
この記事では、総務省・デジタル庁・内閣府が公表している資料をもとに、制度の要点と全国の導入状況を整理します。数字と制度は公式資料で確認したものだけを載せ、出典リンクを添えました。庁内の説明資料や起案の材料に、そのまま使える形です。
※本記事は2026年8月時点で確認した内容です。制度も調査結果も更新されます。庁内資料に引用する際は、必ずリンク先で最新版をご確認ください。
結論|議論はすでに「入れるか」から「どう使うか」に移っている
- 都道府県と指定都市の生成AI導入率は100%(総務省・令和7年10月31日時点)。その他の市区町村も45.6%が導入済みで、実証中・導入予定・導入検討中を含めると約88%が動いています
- 庁内ルールを「策定済」の団体が、初めて「未策定」を上回りました(策定済853団体・未策定737団体)
- ルールをゼロから起こす必要はありません。総務省が「生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」をWord形式で無償公開しています
つまり「まだ様子を見るべきでは」という主張は、2026年時点ではむしろ少数派の側にあります。以下、その根拠を順に確認します。
国が示している方針|押さえるべき4つの文書
| 文書 | 誰が・いつ | 自治体との関係 |
|---|---|---|
| AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律) | 令和7年法律第53号/令和7年5月28日成立 | 第5条で、地方公共団体は地域の特性を生かした自主的な施策を策定・実施する責務があるとされた |
| 人工知能基本計画 | 内閣府/第Ⅰ期は令和7年12月23日、第Ⅱ期は2026年7月14日に閣議決定 | 「自治体AX」として、優良な使い方の横展開と適正な利活用の促進を掲げる |
| 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン | デジタル社会推進会議幹事会/令和7年5月27日決定 | 国の府省向けだが「地方公共団体においても、必要に応じ、参考とされることが期待」と明記 |
| 自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版) | 総務省/令和7年12月16日公表 | 自治体向けの実務書。庁内ルールのひな形が別添で付く |
庁内説明でいちばん使いやすいのは4つ目の総務省ガイドブック第4版です。これだけが自治体向けに書かれた文書だからで、他の3つは国の機関や社会全体が対象のため、そのまま庁内規程には落ちません。
全国の導入状況|都道府県・指定都市は100%、その他市区町村は45.6%

総務省は毎年、全国の自治体に導入状況を照会しています。最新は令和7年度調査(令和8年4月24日公表・令和7年10月31日時点)で、対象1,788団体の全団体から回答が返っています(回答率100%)。
| 区分 | 令和5年12月末 | 令和6年12月末 | 令和7年10月末 |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 51.1% | 87.2% | 100% |
| 指定都市 | 40.0% | 90.0% | 100% |
| その他の市区町村 | ― | 29.9% | 45.6% |
読み方のポイントは2つです。ひとつは都道府県と指定都市はすでに全団体が導入済みという事実。この規模の団体について「前例がない」という反論は成立しなくなりました。もうひとつは、その他の市区町村でも、検討段階まで含めれば約88%が動いていること。まったく手をつけていない団体のほうが少数派です。
小規模な団体ほど数字が伸びにくいのは事実ですが、それは「やらない」ではなく「順番が後」という状態です。比較対象を全国平均ではなく同規模の団体に置き換えると、話が現実的になります。
ガイドライン策定状況|「策定済」が初めて「未策定」を上回った
| 状態 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|---|---|---|
| 策定済 | 359団体 | 647団体 | 853団体 |
| 策定中 | 232団体 | 137団体 | 198団体 |
| 未策定 | 1,197団体 | 1,004団体 | 737団体 |
3年で策定済が2倍以上に増え、未策定を追い越しました。導入状況別に見ると、生成AIを「導入済」の団体では81%が策定済み、「実証中」の団体では38%。裏を返せば、実証段階ではルールが後回しになりやすいということでもあります。
そして実務上いちばん大きい変化がこれです。総務省はガイドブック第4版の別添として「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」をWordファイルで公開し、あわせて「生成AIシステム特有のリスクケースの報告フォーム」もExcelで提供しています。総務省「自治体DXの推進」のページから誰でもダウンロードできます。ルールづくりは、条文を起こす作業から空欄を埋める作業に変わりました。
ガイドラインで共通して決められている6つの論点

総務省のひな形は、おおむね次の6項目で構成されています。他団体のガイドラインを読み比べても、粒度の差はあれ論点はほぼ共通しています。「何を決めればいいのか」と聞かれたら、この6つを示せば話が具体化します。
| 論点 | ひな形での決め方 |
|---|---|
| 使ってよいサービス | 担当課が指定したものだけ利用可、指定外は禁止。「危ないものを禁じる」ではなく「認めたものだけ許す」方式 |
| 誰が・どの業務で・何を入力してよいか | 別表に、サービスごとの担当課室/利用者/業務範囲/入力可能な情報を書き込む |
| 使う前に理解すべきこと | 指定する研修の受講を利用の条件として明記。ハルシネーション(もっともらしい嘘の生成)等のリスク理解、私用端末に個人的に入れた生成AIへ職務上の情報を入力しないことも定めている |
| 出てきたものの扱い | AIの出力にもとづく判断も説明責任の対象と明記。事実関係を確認し、差別的表現や第三者の権利を侵す表現は必ず修正。委託先の成果物に生成物が含まれる場合は契約書に定める |
| 問題が起きたときの報告 | 検知した職員→情報政策担当課→AI統括責任者(CAIO)という流れ。報告フォームの様式も用意されている |
| ルールを変える権限 | 変更・廃止はCAIO等の決裁。技術の進展や法改正を踏まえ随時見直す前提 |
CAIO(AI統括責任者)は国の各府省に置かれている役職です。総務省は、自治体では既存のCIOとの兼務が多いとしたうえで、補佐役を都道府県が確保して市町村へ派遣する/複数団体で共同設置する選択肢を挙げ、広島県・愛媛県などの実例を載せています。人材がいないから置けない、という結論にはならない設計です。
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入力してよい情報・だめな情報|「自治体機密性」という物差し
庁内でいちばん揉めるのがここです。判断の物差しは、総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(最新は令和8年3月版)が定める自治体機密性の分類。ガイドブックは、この分類と生成AIの利用を次のように対応づけています。
| 分類 | クラウドサービスでの扱い(要点) |
|---|---|
| 自治体機密性3A | 行政文書管理のルールに従う(極秘文書はインターネット非接続の環境で保存) |
| 自治体機密性3B・3C | ISMAP登録サービスは利用可。アクセス制御や暗号化などの追加対策が必要 |
| 自治体機密性2 | 可。ただし約款への同意だけで使えるクラウドサービスでは扱えない |
| 自治体機密性1 | 可 |
各団体がどこまで許しているかも数字が出ています。ガイドライン策定済みの団体のうち、入力可能としている情報は「自治体機密性1に相当する情報」が654団体と最多。以下、機密性2が293団体、3Cが59団体、3Bが49団体でした(複数回答)。大半の団体は、公開情報レベルから始めています。いきなり住民の個人情報を入れる想定でルールを組んでいる団体は少数派で、これは慎重派を説得する材料にもなります。
生成AI特有の注意点として、ガイドブックは入力した要機密情報を学習させない仕組み(オプトアウトの徹底)を挙げ、サーバーの設置国によっては現地の法令が適用され検閲や接収を受ける可能性にも触れています。「どこの国のサーバーに保存されるか」は庁内審査で必ず問われます。
何に使われ、どれだけ効果が出ているか

用途は「部局共通の文書仕事」に集中しています。令和7年度調査で回答が多かった順に、あいさつ文案の作成(1,292件)、議事録の要約(1,131件)、議会の想定問答の文案作成(1,085件)、メール文案の作成(1,052件)、企画書案の作成(997件)です。
効果の例は、団体の人口規模つきで公表されています。人口5.1万人の団体で文章作成業務が月190時間から51時間へ(73%減)、人口18.6万人の団体で広報誌の企画・情報収集などが年間換算288時間の削減見込み(47%減)。自団体と近い人口規模の行を探せる形で出ているのが、この資料の使いどころです。
浮いた時間の使い道の最多は「業務プロセス改善など内部事務の改善」(637件)、次いで「住民対応時間の確保など住民サービスの向上」(622件)。「効率化して何をするのか」に答える材料になります。なお導入コスト・年間ランニングコストとも「0円」が最多でした(705件/468件)。
残っている壁|正確性・人材・情報流出
令和7年度調査で挙がった課題は、多い順に「AI生成物の正確性への懸念」「取り組むための人材がいない又は不足している」「要機密情報流出の懸念」。前年度は人材不足が1位でしたから、順位が入れ替わっています。
正確性への懸念に対して、総務省ははっきりした整理を示しています。用途によって求められる正確性の水準は違うのだから、一律に「危ないから使わない」とするのではなく、生成物を人が確認するルールを設ければよいという考え方です。生命・安全に関わる機微な情報でない限り、誤りが含まれる可能性を明示したうえで出力を使う方法もある、と。実例として、東京都渋谷区が住民向けチャットボットで「誤った回答をする場合があります」と明示しつつ多言語対応している事例が挙げられています。
人材面には、はっきりした変化が出ました。人材確保の取組として、令和6年度までは「取組をしていない」が最多だったのに対し、令和7年度は「職員の育成(研修会の開催など)」が最多になりました。ガイドブックも、すぐ使えるプロンプト集の共有や職員のレベル別の研修を有効な手立てとして挙げています。研修そのものの中身・費用・予算化の進め方は自治体向け生成AI研修|職員研修の内容・費用・予算化の進め方にまとめています。
ただしガイドブックは「AIに頼りすぎて、職員自身の文章作成・読解力や企画立案能力の向上が妨げられないように」とも書いています。理由は明快で、自分で書けない・読めない人は、AIの出力が妥当かどうかを判断できないからです。
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テレビ・新聞で取り上げられました
合同会社Yukarimiは島根県松江市の「MIX PoC」第7号に採択され、地域の実証案件に関わってきました。
他の自治体はどう決めたか|条例型・更新型・小規模団体型
| 型 | 団体 | やったこと |
|---|---|---|
| 条例に位置づける | 神戸市 | 情報通信技術を活用した行政の推進に関する条例に生成AIのルールを追加。あわせて「神戸市生成AI利用ガイドライン」で個人情報等の入力禁止などを定め、2024年2月から全職員が利用できる体制に |
| 版を重ねて育てる | 東京都 | 2023年8月の「文章生成AI利活用ガイドライン」から始め、活用事例集の公表などを重ね、2026年3月に対象をAI全般へ広げた「AI導入・活用ガイドライン」+「生成AI利用の手引き」へ発展 |
| 人手をかけずに回す | 熊本県あさぎり町ほか | 無償の地域情報化アドバイザーの支援を受け、部署横断チームで「生成AI職員利用基準」を町長決裁で策定。導入後は週1回、活用事例とプロンプトを1枚のビラにして庁内に配る取組を約1年継続 |
| 相談窓口を軽くする | 島根県美郷町 | 情報担当課へ気軽に質問できるグループチャットを設けて随時対応。職員の要望を受けて使える生成AIを追加することにもつながった |
小規模団体の例は、総務省が令和7年11月に4市町村へ聞き取ったものです(ほかに長野県原村の全職員向け研修、佐賀県鹿島市の事業者研修の定期案内など)。
島根県内では、松江市が2026年5月に「松江市生成AI導入支援業務委託」の公募型プロポーザルを公示し、LGWAN接続環境から使えるサービスの導入を進めています(松江市公式ページ)。近隣自治体の動きは、庁内説明でもっとも説得力を持つ材料です。
庁内で説明するときの材料の組み立て方
- 国の方針…AI法第5条で地方公共団体の責務が定められ、人工知能基本計画でも自治体でのAI活用促進が掲げられている。「やらない」を国の方針で正当化することはできない
- 他団体の状況…都道府県・指定都市は100%、その他市区町村も45.6%が導入済み。ガイドラインも策定済が未策定を上回った
- ルールの型はある…総務省がひな形をWordで公開済み。ゼロから起こす作業ではない
- 範囲を限定して始められる…多くの団体は自治体機密性1の情報から入っている。最初から全部を許可する必要はない
- 効果の見込み…文書作成業務で7割前後の時間削減という実例が、団体の人口規模つきで公表されている
- 残る課題への手当て…正確性は「人が確認するルール」で、人材は「職員の育成」で。いずれも全国の多数派がとっている手当て
この順番の利点は、最初の2項目で「やらない理由」が消え、残りの4項目で「では、どう始めるか」に話が移ることです。前例を重んじる場ほど、意見よりも「他がどうしているか」の数字が効きます。
まとめ|2026年8月時点で確認できたこと
- 都道府県・指定都市の導入率は100%。その他の市区町村は45.6%、検討中まで含めると約88%が動いている
- 庁内ルールは「策定済」853団体が「未策定」737団体を上回り、総務省がひな形(Word)とリスク報告フォーム(Excel)を無償公開している
- 入力可能な情報は自治体機密性1が最多で、多くの団体は範囲を絞って始めている。課題は正確性・人材・情報流出
制度と数字を押さえたうえで自庁の導入をどう進めるかは、自治体の生成AI活用ガイド|導入の進め方と職員が使える業務で扱っています。
繰り返しになりますが、本記事の内容は2026年8月時点で公式資料により確認したものです。調査結果は毎年度更新され、ガイドラインも改訂されます。庁内資料に引用する際は、必ずリンク先の最新版でご確認ください。
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参考にした一次情報
- 総務省「令和7年度『地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査』の調査結果の公表」(令和8年4月24日公表)/2026年8月3日確認/報道資料
- 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」(令和7年12月16日公表)/2026年8月3日確認/報道資料/本体とひな形の掲載先
- 総務省「自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ報告書」(令和7年7月公表)/2026年8月3日確認/報道資料
- 内閣府「人工知能基本計画」(第Ⅰ期=令和7年12月23日、第Ⅱ期=2026年7月14日 閣議決定)/2026年8月3日確認/計画本文
- デジタル社会推進会議幹事会「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(令和7年5月27日決定)/2026年8月3日確認
- AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律/令和7年法律第53号・令和7年5月28日成立)/2026年8月3日確認
- 神戸市「生成AIの利用について(生成AI利用ガイドライン)」/2026年8月3日確認/神戸市公式ページ
- 東京都「AI導入・活用ガイドライン」「生成AI利用の手引き」(2026年3月改定)/2026年8月3日確認/東京都デジタルサービス局
- 松江市「松江市生成AI導入支援業務委託 公募型プロポーザル」(2026年5月公示)/2026年8月3日確認/松江市公式ページ
