「自治体DX」という言葉は、庁内でも人によって指しているものが違います。オンライン申請のことだと思っている人、基幹システムの入れ替えのことだと思っている人、AIやRPAの導入のことだと思っている人が、同じ会議に座っています。
国が示している定義は、そのどれよりも広いものです。住民との接点(フロントヤード)と内部事務(バックヤード)を、一体で作り変える。これが自治体DXです。
この記事では、総務省の自治体DX推進計画【第5.1版】をもとに、2026年時点で全国がどこまで進んでいるのか、何をやることなのか、自団体が今どの段にいるのかを整理します。個別のテーマは枝記事に分けているので、必要なところだけ読んでいただいて構いません。
結論|自治体DXは「システムを入れる話」ではなく、窓口と内部事務を同時に変える話
自治体DX推進計画は、DXを総合的に推進するために重要な視点として、次の3つを挙げています。
- 住民サービスの高度化
- 窓口対応等の効率化により、創意工夫を要する業務のために人員配置の最適化を実現する
- データを活用した意思形成につなげていく
2番目の言い方が、この計画の芯です。「効率化して人を減らす」ではなく「効率化して、人にしかできない仕事に人を回す」。人口減少で職員が減っていくことを前提に、行政サービスを持続可能な形で提供し続けるための組み替え、という位置づけになっています。
そして計画は、フロントヤードとバックヤードの一体的な取組を求めています。窓口だけをデジタル化しても、裏で紙に打ち直していれば職員の手間は増えます。逆に基幹システムだけを入れ替えても、住民から見える手続きは何も変わりません。どちらか片方だけ進めた自治体が、いちばん苦しくなる構造です。
30分・無料・オンライン可の個別相談では、自団体の取組がフロント側・バック側のどちらに偏っているかを見るところから始められます。売り込みはしません。
自治体DXとは|定義と、民間のDXとの3つの違い
DXそのものの定義は、総務省の計画に注記として置かれています。
ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること。
(総務省「自治体DX推進計画【第5.1版】」注1)
自治体DXは、これを行政の現場でやることです。ただし民間企業のDXとは、前提が3つ違います。
違い1|「やめる」という選択肢が取りにくい
民間なら、採算が合わないサービスは畳めます。行政サービスは、利用者が少なくても簡単には止められません。だから新しい仕組みを入れるとき、古い仕組みを残したまま二重運用になりやすい。窓口を残したままオンライン申請を足せば、職員の対応チャネルは1つ増えます。デジタル化したのに現場が楽にならない原因の多くが、ここにあります。
違い2|担当者が3〜4年で入れ替わる
人事異動が制度として組み込まれています。民間のように「詳しい人がずっと担当」という前提が置けません。個人の知識に依存した進め方をすると、異動のたびにゼロに戻ります。
違い3|予算と調達の型が決まっている
単年度予算、仕様書、入札。新しい技術を「試してから決める」という進め方と噛み合いにくい型です。年度の途中で「やっぱりこっちにしよう」がやりにくい、という制約があります。
この3つは、後で出てくる「進まない理由」の根っこでもあります。詳しくは枝記事の自治体DXが進まない理由で扱います。
2026年の現在地|「遅れている」ではなく、団体規模で二極化している

自治体DXの話になると「日本の自治体は遅れている」という一般論になりがちですが、数字を見ると景色が違います。進んでいる団体と、そもそも体制がない団体に、はっきり分かれています。
総務省の推進計画【第5.1版】別紙1に載っている令和6年度(2024年度・各年度4月1日時点)の集計値です。
| 項目 | 全自治体 | 都道府県 | 指定都市 | 特別区 | 市 | 町村 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| DXを推進する全庁的・横断的な推進体制を構築 | 69.5% | 100% | 100% | 87.0% | 82.5% | 56.0% |
| DX推進専任部署を設置 | 55.7% | 100% | 100% | 91.3% | 76.2% | 34.6% |
| DXを推進するための全体方針を策定 | 61.2% | 100% | 100% | 95.7% | 82.3% | 40.0% |
(出典:総務省「自治体DX推進計画【第5.1版】」別紙1。もとデータは総務省「自治体DX・情報化推進概要(令和6年度)」)
都道府県と指定都市はすべて100%です。一方で町村は、専任部署がある団体が3分の1、全体方針がある団体が4割。「自治体DX」とひとくくりに語られていますが、実際には同じ言葉が指す状況が団体規模でまったく違うということです。
もうひとつ、AIの導入状況も同じ形をしています。
| 年度 | 都道府県 | 指定都市 | その他市区町村 |
|---|---|---|---|
| 令和4年度 | 100% | 100% | 44.8% |
| 令和5年度 | 100% | 100% | 49.9% |
| 令和6年度 | 100% | 100% | 57.9% |
その他市区町村は、3年で44.8%→57.9%まで伸びています。遅れているのではなく、順番が後に来ているだけという読み方のほうが実態に近い数字です。
なお、団体ごとの取組状況は、デジタル庁の「自治体DXの取組に関するダッシュボード」で個別に確認できます。近隣団体と比べたい、議会に説明したいというときは、このダッシュボードが一次情報として使えます。
総務省が示す8つの重点取組事項|実務では何をやることか
自治体DX推進計画【第5.1版】が挙げている重点取組事項は、次の8つです。古い解説記事では6項目になっていますが、それは2022年当時の構成です。
| 重点取組事項 | 実務では何をやることか |
|---|---|
| ①自治体フロントヤード改革の推進 | オンライン申請・書かない窓口・予約システム・リモート窓口・移動窓口などを組み合わせ、住民が手続きできる場所と方法を増やす |
| ②地方公共団体情報システムの標準化 | 住民基本台帳・税・児童手当など基幹系20業務のシステムを、国の標準仕様に準拠したものへ移行する |
| ③国・地方デジタル共通基盤に基づく共通化等の推進 | 団体ごとに個別に作らず、共通の基盤を使う。都道府県と市町村が連携した共同調達もここ |
| ④公金収納におけるeL-QRの活用 | 保険料や使用料などの納付書に、地方税と同じQRコードを載せて納付できるようにする(2026年9月以降、団体ごとに開始) |
| ⑤マイナンバーカードの取得支援・利用の推進 | カードを前提とした手続き(オンライン申請の本人確認など)を増やす |
| ⑥セキュリティ対策の徹底 | 令和6年改正の地方自治法により、令和8年度からサイバーセキュリティ確保の方針策定が義務づけられている |
| ⑦自治体のAIの利用推進 | 音声認識・文字認識・チャットボット・生成AIなどを業務に組み込む |
| ⑧テレワークの推進 | 職員が庁舎の外で働ける環境を整える |
このうち①フロントヤード改革が、いちばん誤解されやすい項目です。「オンライン申請を増やすこと」だと理解されがちですが、計画が求めているのはもっと広い話です。
計画はデジタル手続法の3原則を引いています。
- デジタルファースト:個々の手続き・サービスが一貫してデジタルで完結する
- ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出させない
- コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する
そのうえで、庁舎だけでなく自宅・支所・公民館・郵便局といった住民に身近な場所でも手続きできるようにすること(オムニチャネル化)、そして対面で手続きする場合も紙ではなくデータで対応することを求めています。
つまり「窓口をなくす」話ではありません。窓口に来た人も、来なかった人も、裏側では同じデータの流れに乗るという設計です。
各項目の詳しい中身と、計画そのものの読み方は自治体DX推進計画【第5.1版】の解説にまとめています。
進め方の骨格|国の手順書は「ステップ0」から始まっている

総務省は計画とは別に「自治体DX全体手順書」(2026年1月改定)を出しています。そこで示されている手順は4段です。
- ステップ0:認識共有・機運醸成
- ステップ1:全体方針の決定
- ステップ2:推進体制の整備
- ステップ3:DXの取組みの実行
注目すべきは、ステップ0が「認識共有・機運醸成」であることです。国の手順書自体が、ツールの導入は4段目だと言っています。
そして計画本体では、8つの重点取組事項の手前に2つの章が置かれています。
(1)DXを進める前提となる考え方
- BPRの取組の徹底(業務そのものの見直し)
- 自治体におけるシステム整備の考え方
- オープンデータの推進・官民データ活用の推進
(2)DXの推進体制の構築
- 組織体制の整備
- デジタル人材の確保・育成
- 計画的な取組
- 都道府県と市町村の連携による推進体制の構築
「業務を見直す → 体制を作る → 取組を実行する」という順番です。第5.0版の改定では、この2つの章の順序を入れ替えて「総論から各論への流れを明確化する」ことが行われました。国の側も、順番が大事だと言っているわけです。
30分・無料・オンライン可の個別相談では、自団体が今どのステップで止まっているかの見立てから相談を受けています。
自分の団体は今どこにいるか|4つの質問で位置を確かめる
計画や手順書を読み込む前に、次の4つに答えられるかどうかで、自団体の現在地がだいたい分かります。
質問1|DXの全体方針(ビジョンと工程表)はありますか。<br>全国の61.2%が策定済み、町村では40.0%です。無い場合、ステップ1で止まっています。この状態で個別のツール導入を始めると、なぜそれを入れたのかを説明できる人が庁内にいなくなります。
質問2|DX推進の企画立案と部門間の調整をする部署は決まっていますか。<br>専任部署がある自治体は全国で55.7%、町村では34.6%。「情報政策担当が兼務でやっている」という状態は、けっして珍しくありません。
質問3|昨年やったことを、担当が代わっても説明できる形で残していますか。<br>異動が前提の組織で、これが無いと3年ごとにやり直しになります。
質問4|フロント側(窓口・申請)とバック側(内部事務・システム)のどちらに偏っていますか。<br>計画が求めているのは一体的な取組です。片方だけ進んでいる場合、職員の負担はむしろ増えている可能性があります。
4つのうち答えられないものがあれば、そこが最初に手をつける場所です。ツールの選定より前に埋まっていないと、入れたあとで必ず戻ってくる項目ばかりだからです。
つまずく場所は、だいたい決まっている

自治体DXが止まる理由として、よく「人がいない」「予算がない」「アナログ文化」が挙げられます。どれも事実ですが、それだけでは対処のしようがないというのが担当者の実感だと思います。
実際に効いているのは、もう少し手前の詰まりです。たとえば、総務省の集計ではDX推進担当課室・情報政策担当課室の職員数が0人または1人の市町村が189自治体あり、全自治体の11%を占めます。これは「人が足りない」というより「担当が置かれていない」に近い状態です。
こうした具体的な詰まりと、外注を増やさずに進めるための順番は、枝記事の自治体DXが進まない理由にまとめています。
生成AI・研修まわりは、どこを読めばよいか
自治体DXの中でも、AIまわりは動きが速く、扱いも別建てになります。当サイトでは次のように分けています。
- 庁内で生成AIを導入する手順(担当1人・予算ゼロから)→ 自治体の生成AI活用
- 国のガイドラインと全国の導入状況(何を書けばよいか)→ 自治体の生成AIガイドライン
- 他団体の事例と、その数字の読み方(自分の団体に当てはめてよいか)→ 自治体の生成AI活用事例
- 職員向けの研修メニューと予算の立て方 → 自治体・教育機関向けの生成AI研修
なお、職員研修の位置づけは計画の中にも書かれています。 計画は、一般行政職員のデジタルリテラシー向上だけでなくDX推進リーダーの育成に積極的に取り組むことを求め、管理職向けの意識改革研修と担当職員向けの実践的な研修を、悉皆研修と選択別研修を組み合わせて職員研修体系に位置づけることを挙げています。さらに、デジタル人材の確保・育成に係る方針を策定していない自治体は、令和9年度までに策定の上で取組を進めることが求められると、年次まで明示されています。
研修の費用感についてはAI研修の費用にまとめています。
よくある質問
Q. 自治体DXとDX推進計画は、どう違いますか。<br>自治体DXは取組そのもの、自治体DX推進計画は総務省が示している文書の名前です。計画は地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言という位置づけで、それ自体は法的な義務ではありません。ただし標準化のように、別の法律で義務づけられた取組も計画の中に含まれています。
Q. 小さな町村でも、8項目すべてに取り組む必要がありますか。<br>計画は「地域の実情や課題、住民ニーズに応じ、自主的・主体的に取り組まれるべきもの」であり、「単に他自治体の事業をそのまま模倣して導入するのではなく」と明記しています。一方で、標準化やセキュリティ方針の策定のように法令上の義務がある項目は別です。まず義務と助言を仕分けるところから始めるのが現実的です。
Q. 都道府県は市町村を支援してくれますか。<br>計画の重点項目に「都道府県と市町村の連携による推進体制の構築」が入っています。都道府県が「自治体DXアクセラレータ」を中心にデジタル専門人材のプール機能を確保する取組が進んでおり、2025年度中に全ての都道府県で市町村と連携した推進体制を構築できるようにする、という目標が置かれています。まず自団体の都道府県の担当課に、支援メニューがあるかを聞くのが早道です。
Q. 何から手をつけるのが正解ですか。<br>国の手順書に従えば、ステップ0(認識共有)とステップ1(全体方針)です。ただし現実には、方針を作るための材料が庁内に無いことが多いので、「今どの業務にどれだけ時間がかかっているか」を1つの課で棚卸しするところから始めるのが、いちばん詰まりにくい入り方です。
まとめ
- 自治体DXは、フロントヤード(住民との接点)とバックヤード(内部事務)を一体で変える取り組み。片方だけ進めると職員の負担は増える
- 全国の状況は団体規模で二極化している。都道府県・指定都市は体制100%、町村は専任部署34.6%・全体方針40.0%
- 総務省の重点取組事項は8項目(古い解説の6項目は2022年の構成)
- 国の手順書はステップ0=認識共有から始まる。ツール導入は最後の段
- 自団体の位置は、全体方針/専任部署/記録の残し方/フロントとバックの偏りの4つで確かめられる
まず自団体の全体方針を開いて、重点取組事項が今の8項目に対応しているか、工程表の年次が生きているかを見るところから始めてください。
まずは30分、無料の個別相談で整理しませんか
30分・無料・オンライン可・売り込みなし。気になっている業務を3つ挙げていただき、その場で「AIに置き換わる/半分楽になる/向かない」に仕分けしてお持ち帰りいただきます。
テレビ・新聞で取り上げられました
