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自治体の生成AI活用事例|公表された「削減時間」を自分の市町村に置き換える読み方

2026 8/28
自治体AI
2026.08.28
自治体の生成AI活用事例を検討する市役所の執務室

「他の自治体の事例を集めて庁内で説明したい」——そう言われて検索すると、事例をまとめた記事はいくらでも出てきます。ところが実際に説明資料を作ろうとすると、手が止まります。その「年間◯時間削減」という数字がどう出たのか、そして同じことが自分の役所でも起きるのかが、どこにも書かれていないからです。

先に結論を言うと、事例はもう十分な数が公開されています。足りないのは事例そのものではなく、読み方です。公表された数字には「実測値」と「試算値」があり、この2つを取り違えたまま庁内資料に載せると、財政部門から根拠を聞かれた時に答えられなくなります。

この記事では、各自治体の公表資料と総務省の資料まで実際にさかのぼって確認できた事例だけを扱い、次の3つを整理します。

  • 公表された「年間◯時間削減」が、どういう計算で出ているか
  • その事例が自分の自治体で再現するかを、4つの項目で照合する方法
  • 事例の紹介記事には出てこない、導入の手前で実際に時間を取られる作業

なお、導入の進め方そのもの(何から始めて庁内をどう通すか)は自治体の生成AI活用ガイド、全国の導入状況とガイドラインの策定状況は自治体の生成AIガイドラインの作り方、生成AIを含む自治体DX全体の現在地は自治体DXとは?2026年の現在地と、進め方の全体像で扱っています。この記事は事例の読み方に絞ります。

目次

公表資料で確認できた自治体の生成AI活用事例

まず、自治体の公式発表や総務省の資料までさかのぼって内容を確認できた事例を挙げます。ここに載せているのは、出典のリンク先で数字と条件を確認できたものだけです。

大阪府泉大津市|全庁での実証と、効果額の試算まで公表

  • 公表日:2025年3月5日
  • 実証期間:令和6年9月〜令和7年3月(約7か月)
  • 実測値:アンケート回答者70名で、業務時間の削減が合計2,102時間、経費削減効果が約470万円
  • 試算値:本庁舎の正職員約350名に広げた場合、年間で約1.8万時間(1人あたり年間約50時間)、削減効果額で約3,800万円
  • 継続意向:98%

この事例が重要なのは、実測値と試算値の両方が公表されている点です。詳しくは次の章で扱います。

神奈川県横須賀市|全庁実証の結果を、良い面も悪い面も公開

  • 公表日:2023年6月5日/実証開始:令和5年4月20日から
  • 最終アンケートの回答者のうち約8割が「仕事の効率が上がる」「利用を継続したい」と回答
  • 一方で、実際に活用したのは約半数の職員
  • 6%程度の職員が「おおむね不適切な回答が返ってくる」と回答
  • 他自治体からの問い合わせは60団体を超えた

こちらは時間削減の数値が公表されていません。市の発表では「利用者ヒアリングの結果、業務短縮効果が認められた」という定性的な書き方にとどまっています。

北海道当別町|人口1.5万人、現場職員が主導した導入

  • 人口規模:1.5万人(令和6年1月1日現在/総務省の区分では「1万人以上5万人未満」)
  • 使っているもの:RAGを用いた生成AI、Microsoft 365 Copilot
  • 対象業務:議事録の要約、広報などの文書作成を中心に、分野を問わず活用
  • 特徴:情報部門からの号令ではなく、現場の職員が中心となって検証を進めたボトムアップ型

このページには効果の数値は載っていません。数字が無いこと自体が、人口規模の小さい団体の実態に近いとも言えます。

山形県山形市|相談業務での活用(傾聴型の生成AI)

山形市は、LINEを使った相談支援「つながりよりそいチャット」で、24時間対応する傾聴型の生成AIと、有資格の専門スタッフを利用者が選べる形の運用を進めています。子育て世帯向けの「おやこよりそいチャットやまがた」で先に実証を行い、そこから広げた経緯が公表されています。文書作成や議事録要約とは違う、住民に直接向き合う業務での活用例です。

一次情報まで確認できなかった数字について

事例を紹介する記事では、ほかにも「年間22,700時間削減」「9,000件の相談の約8割をAIが対応」といった数字がよく引用されています。ただしこの記事を書くにあたって各自治体の公表資料を確認した範囲では、これらの数値の出どころを特定できませんでした。

出どころが確認できない数字は、庁内の説明資料に載せないほうが安全です。財政部門や議会から「その数字の根拠は」と聞かれたときに答えられないためです。

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「年間◯時間削減」をそのまま信じない|数字の裏側を検算する

事例を庁内説明に使うときに、いちばん事故が起きるのがここです。

実測値と試算値は、まったく別のものです

先ほどの泉大津市の例を、もう一度並べてみます。

対象期間数値
実測値アンケート回答者70名約7か月2,102時間 / 約470万円
試算値本庁舎の正職員 約350名年間約1.8万時間 / 約3,800万円
出典:泉大津市「株式会社グラファーとの『生成AI導入による行政業務効率化』に関する実証実験結果について」(2025年3月5日公表)

インターネット上で引用されているのは、ほとんどが下の段の「1.8万時間・3,800万円」です。上の段の実測値と、母数が70名であることは、たいてい落ちています。

泉大津市は両方を正直に出している側で、これは丁寧な公表の仕方です。問題は、それを引用する側が試算値だけを取り出してしまうことにあります。

数字を見たら確認する3つのこと

事例に付いている数値を庁内で使う前に、出典をたどって次の3つを確認してください。

  1. 母数は何人・何件か — 70名なのか、350名なのか、全職員なのか
  2. 期間はどれだけか — 7か月の実績を年間に換算しているのか、実際に1年動かした結果か
  3. 実測か、試算・推計か — 「削減した」と「削減が見込める」「示唆された」は別のことばです

出典に「〜が見込めることが示唆されました」と書かれていれば、それは試算です。悪い数字という意味ではなく、そのまま自庁の数字として使ってはいけない数字という意味です。

自分の役所の数字に置き換える

置き換えの手順は難しくありません。事例の試算式をほどいて、自庁の値を入れ直すだけです。

  1. 事例の1人あたり・1年あたりの数値を取り出す(泉大津市の例では年間約50時間/約10.8万円)
  2. その数値が、どの職員層を対象にしたものかを確認する(本庁舎の正職員か、全職員か)
  3. 自庁で同じ層に当たる人数を掛ける
  4. さらに、次章の照合4項目で条件が違う分を差し引く

ここまでやって出した数字であれば、根拠を聞かれても答えられます。逆に、他団体の総額をそのまま持ってくると、規模の違いだけで数字が破綻します。

その事例が自分の自治体で再現するかを、4項目で照合する

自治体の生成AI活用事例を自分の市町村と照合する手元

事例が動いた自治体と自分の自治体では、前提が違います。違いが大きいほど、同じ数字は出ません。照合する項目は次の4つで足ります。

1. 人口規模と、担当の体制

いちばん効くのがここです。全庁で数百人規模の実証ができる団体と、情報政策の担当が他の業務と兼務で1〜2人という団体では、そもそも回せる作業量が違います。

  • 事例の団体の人口規模と職員数を確認する
  • 担当が専任か兼務かを確認する(公表資料に書かれていないことも多く、その場合は「不明」と扱う)
  • 自庁の担当が兼務であれば、実証の設計そのものを小さくする

当別町の事例が参考になるのは、人口1.5万人の団体で、しかも現場職員が主導した形が公表されているためです。同じ規模の団体であれば、大都市の全庁実証より現実的な参照先になります。

2. ネットワーク環境

同じツール名でも、どのネットワークで動かしているかで使い勝手と手続きが変わります。

  • LGWAN接続系で動かすのか、インターネット接続系で動かすのか
  • 業務端末から直接使えるのか、別の端末に移動して使うのか
  • 三層分離の構成が、事例の団体と自庁で同じか

ここが違うと、「議事録を要約する」という同じ用途でも、職員の手間が数分単位で変わります。そしてその数分の差が、利用が続くかどうかを左右します。

3. 対象業務の年間発生件数

これは見落とされがちですが、効果額に直結します。

1回あたり30分短縮できる業務でも、年に4回しか発生しない業務なら年間2時間です。逆に、1回5分の短縮でも毎日発生するなら年間20時間を超えます。

事例を読むときは、その業務が事例の団体で年に何回発生しているかを見てください。書かれていなければ、自庁の件数で置き換えて計算し直す必要があります。

4. 誰が最終確認をするのか

生成AIが出した文章を、そのまま決裁に回すことはありません。必ず職員が確認します。つまり、

削減できるのは「作る時間」であって、「確認する時間」ではありません。

事例の数値が、確認の時間を含んだものか、含んでいないものかを確認してください。含んでいなければ、自庁で計算し直すときに確認の時間を足す必要があります。この一手間を入れておくと、導入後に「思ったほど減らない」と言われる事態を避けられます。

この照合を一緒にやることもできます。参考にしたい事例と、自庁の業務を3つお持ちいただければ、どこが同じでどこが違うのかを30分で整理してお返しします。30分・無料・オンライン可。売り込みはしません。

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実証で止まった事例と、本運用まで進んだ事例の違い

公開されている事例は、成功した話に偏ります。実証で終わったものは、そもそも発表されないためです。ただし、公表資料の中にも手がかりはあります。

「配ったが、半分は使っていない」は普通に起きる

横須賀市の実証結果では、アンケートで約8割が「効率が上がる」と答えた一方で、実際に活用したのは約半数の職員でした。全庁に配っても、半分は使わない。これは失敗ではなく、初期の標準的な数字だと考えたほうが実態に合います。

引用されるときは「8割が効率向上」の側だけが取り出されがちですが、庁内で計画を立てるときに効いてくるのはもう一方の数字です。想定利用者数を全職員で置いて試算すると、ほぼ確実に上振れします。

実証と本運用の差は、設計の段階でついている

実証が本運用につながるかどうかは、実証の途中ではなく始める前の設計でほぼ決まります。押さえるのは次の3点です。

  1. 測るものを先に決めておく — 開始前の作業時間を測っていないと、後から効果を出せません
  2. 対象業務を絞る — 全庁で全業務に開放すると、何が効いたのか分からなくなります
  3. 次年度の予算要求に使える形で記録する — 実証の記録は、そのまま要求資料の根拠になります

自治体の予算は年度単位で動くため、実証が終わるタイミングと予算要求のタイミングがずれると、そこで1年空きます。この時間軸の話と、庁内での説明の組み立て方は自治体の生成AI活用ガイドで詳しく扱っています。

なお、実証から本格導入に移る際の契約の形(プロポーザルによるのか、既存契約の範囲でやるのか)は団体ごとに事情が違います。この記事では、特定のやり方が使えると断定はしません。契約担当と早めに相談することだけをおすすめします。

事例に書かれない、導入の手前の作業

自治体の生成AI導入の手前で行う準備作業の書類

ここからは、Yukarimiが自治体案件の実証に関わる中で実際に時間を取られた部分です。特定の団体の話ではなく、共通して起きたこととして書きます。

いちばん時間がかかるのは、技術ではなく対象業務の選定

「どのツールを使うか」で悩む時間より、「どの業務でやるか」を決める時間のほうが長くかかります。

理由は単純で、業務の内容を知っているのは現場の職員であり、その業務が生成AIに向いているかを判断できるのは生成AIを触ったことがある人だからです。この2つが最初は別の人になっています。ここを埋めないまま「まずツールを配る」と、使われないまま終わります。

精度の問題は、たいてい「業務の切り方」で解決する

出力の精度が足りないとき、最初に疑われるのは指示の書き方(プロンプト)です。ただ、実際に効いたのは業務のほうを切り直すことが多い、というのが実感です。

たとえば、ひとかたまりの作業として渡すと精度が出ないものが、前半と後半に分けて渡すと安定する。参照する資料を全部渡すのではなく、必要な範囲に絞ってから渡すと安定する。指示の技術ではなく、仕事の分け方の問題であることが少なくありません。

うまくいかなかった業務には、共通点がある

向かなかった業務には、次のいずれかが当てはまることが多くありました。

  • 年間の発生件数が少ない — 効果が出る前に、覚えるコストのほうが上回る
  • 正解が人によって違う — 何が良い出力かを決められないので、確認が終わらない
  • 確認のために元資料を全部読み直す必要がある — 作る時間は減っても、確認の時間が減らない

3つ目がいちばん厄介です。作業としては速くなっているのに、担当者の体感がまったく楽にならないためです。この状態で「効果があった」と報告すると、翌年に使われなくなります。

「使えるか」より先に「誰が確認するか」を決める

導入の可否を検討する会議では、まず「精度は大丈夫か」が議論になります。ただ、実際に運用を止めるのは精度そのものではなく、出力を誰が確認して、間違いがあったときに誰が責任を持つのかが決まっていないことです。

ここを先に決めておくと、精度の議論は「どこまで許容できるか」という具体的な話に変わります。逆にここが空白のままだと、精度がどれだけ上がっても導入の判断が下りません。

事例を自分で探すための一次情報

紹介記事を読むより、公表資料を直接見たほうが早い場面が多くあります。よく使うのは次の3つです。

  • 総務省 地域DXポータルサイト「自治体DX事例検索」 — 団体名・地域・取組内容のタグで事例を探せます。人口規模の区分が付いているので、自分と同じ規模の団体だけを見ることができます
  • 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<別冊付録>先行団体における生成AI導入事例集」 — 先行団体の事例がまとまった資料です
  • 各自治体の報道発表ページ — 紹介記事の元になっている一次資料です。市名と「生成AI 報道発表」で探すとたどり着けます

紹介記事で見つけた数字は、必ずこの3つのどれかで裏を取ってから庁内資料に載せてください。リンクは記事末尾の「参考にした一次情報」にまとめています。

よくある質問

自治体職員が生成AI活用の疑問を確認する打ち合わせ

Q. 自治体での生成AIの活用事例には、どんなものがありますか

A. 公表されている事例で多いのは、あいさつ文や通知文などの文書作成、議事録の要約、住民からの問い合わせへの一次対応、庁内の資料や例規の検索です。この記事では泉大津市・横須賀市・当別町・山形市の公表資料を挙げています。業務別の使い道の全体像は自治体の生成AI活用ガイドで整理しています。

Q. 自治体の生成AI導入状況はどうなっていますか

A. 都道府県と指定都市ではほぼ行き渡っており、その他の市区町村で差が開いている、というのが全体の傾向です。総務省が毎年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」として公表しています。年度ごとに数値が更新されるため、最新の割合は自治体の生成AIガイドラインの作り方と総務省の報道資料をご確認ください。

Q. 市役所でAIを導入している自治体を、まとめて調べる方法はありますか

A. 総務省の地域DXポータルサイトにある「自治体DX事例検索」が使いやすいです。人口規模や地域で絞り込めるため、自分の団体と条件が近いところだけを見ることができます。

Q. 事例の削減時間を、そのまま予算要求の根拠に使えますか

A. おすすめしません。公表されている数値の多くは、一部の職員を対象にした実証結果を全職員に広げた試算です。1人あたりの数値まで戻してから、自庁の人数と業務件数で計算し直してください。その形であれば、財政部門から根拠を聞かれても答えられます。

Q. 職員向けの研修は必要ですか

A. ツールを配るだけでは、横須賀市の実証で見られたように半分程度しか使われません。何の業務にどう使うかを、職員が自分の担当業務に当てはめて考えられる状態にする必要があります。研修の内容と費用は自治体・教育機関向けの生成AI研修で扱っています。

事例は「集める」ものではなく「照合する」もの

この記事の要点をまとめます。

  • 公表されている事例の数値は、実測か試算かを必ず確認する。「見込める」「示唆された」は試算です
  • 引用されている数字は、母数・期間・実測かどうかの3点を出典で確認してから使う
  • 事例が自分の自治体で再現するかは、人口規模と担当体制/ネットワーク環境/業務の年間発生件数/誰が最終確認するかの4項目で照合する
  • 全庁に配っても、初期に実際に使うのは半分程度。全職員を前提に試算すると必ず上振れする
  • 導入の手前で時間を取られるのは技術ではなく、対象業務の選定と確認する人の決定

他団体の事例は、そのまま持ってくるものではなく、自分の団体と照合するための材料です。照合を1回やっておくと、その後の説明資料はすべて自庁の数字で書けるようになります。

合同会社Yukarimiは、島根県松江市の「MIX(Matsue Innovation eXperiment)」の実証事業に第7号として採択されています。

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参考にした一次情報

  • 泉大津市「株式会社グラファーとの『生成AI導入による行政業務効率化』に関する実証実験結果について」(2025年3月5日公表)/2026年8月28日確認/泉大津市公式サイト
  • 横須賀市「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開」(2023年6月5日公表)/2026年8月28日確認/横須賀市公式サイト
  • 総務省 地域DXポータルサイト 自治体DX事例検索「現場職員からのボトムアップによる生成AIの導入検討・活用」(北海道当別町)/2026年8月28日確認/総務省
  • 山形市「つながりよりそいチャットのご案内」/2026年8月28日確認/山形市公式サイト
  • 総務省「令和7年度 地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の調査結果の公表(令和8年4月24日公表)/2026年8月28日確認/報道資料
  • 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<別冊付録>先行団体における生成AI導入事例集」(令和6年7月)/2026年8月28日確認/PDF

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