AIエージェントによる業務効率化の事例を探すと、「10選」「12選」という記事が並びます。在庫管理、問い合わせ対応、営業支援。どれも1件あたり数行で、次の事例に移ります。
この記事は逆のことをします。事例を1つだけ、最後まで書きます。当社が開発作業ではなく会社の恒常業務——研修、地域イベント、開発、記事——を4つの担当に分け、指示を振り分ける司令塔を1つ置いて回している構成です。うまくいっている部分だけでなく、壊れかけた原因も書きます。
結論|事例の数ではなく、続く形かどうか
複数のAIに役割を分ける構成は、作るのは簡単です。難しいのは、担当が増えても管理する側が潰れない形にすることと、続けることです。
- 担当ごとに「自分が読むもの」を持たせる。司令塔が毎回「あの資料も見て」と指示する形にしない
- 司令塔の仕事を、振り分けと報告だけに限定する
- 誰が何を変えたかの記録を残す。ここが抜けると、数週間で全体が読めなくなります
3つ目が、実際にいちばん効きました。理由は後半に書きます。
実際の構成|司令塔1つと、4つの担当
開発案件ごとに担当を作るのではなく、会社の業務そのものに合わせて常設で置いています。
- 司令塔|指示をどの担当に振るかを決め、結果をまとめて人へ報告する。自分では作業しない
- 研修担当|研修の中身、カリキュラム、受講者の反応
- イベント担当|地域イベントの企画と運営
- 開発担当|自動化の仕組み、データ取得、サイトへの反映
- 記事担当|検索キーワードの調査、記事の設計と執筆
人からの指示は必ず司令塔に入ります。「これは誰にやらせるべきか」を人間側が毎回考えなくてよくなるのが、この形のいちばん実用的な効果でした。案件単位で作る形だと、案件が終わるたびに作り直しになります。業務単位で常設にすると、そこが積み上がります。
担当に「読むもの」を持たせる

ここが、この構成でいちばん効いている設計です。
各担当に、自分の役割・守るべきルール・参照すべき手順書の一覧を書いた定義を持たせています。そして司令塔は「この資料も読んで」と個別に指示しません。担当が自分の定義を見て、必要なものを自分で取りに行きます。
最初は逆でした。司令塔が指示のたびに「今回はこの手順書も参照して、この注意点も守って」と付け足していました。これは、付け忘れた日に事故ります。人間が毎回覚えていることを前提にした設計は、忙しい日に必ず破れます。
- 手順書を直せば、次から担当が新しいものを読む。司令塔に伝え直す手間がありません
- 司令塔が資料の中身を把握しなくてよくなる
- 指示の書き方が毎回同じでよくなる。「これをやって」だけで済みます
言い換えると、ルールの置き場所を司令塔の頭の中から、担当の手元に移したということです。組織で言えば、上司が口頭で伝えていた注意事項を、業務マニュアルに書いて各自に持たせるのと同じ話です。
担当に渡す指示や手順書の書き方そのものは、業務で使えるプロンプトの書き方|型で覚える5要素と直らない時の切り分けで型として整理しています。
担当を増やしても司令塔の負荷が上がらない
前の節の設計には、続きがあります。担当が4つから5つ、6つに増えても、司令塔の仕事量がほとんど変わりません。
司令塔がやることは2つだけだからです。「どの担当に振るか」を決めることと、返ってきた結果をまとめること。担当が何を読むべきかも、何を守るべきかも、司令塔は知らなくてよい。だから担当が増えても、覚えることが増えません。
逆に、司令塔が各担当のルールを把握している設計にすると、担当を増やすたびに司令塔の負荷が増え、どこかで頭打ちになります。人間の組織でも同じで、マネージャーが全部門の細則を覚えている会社は、部門を増やせません。
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分業が壊れるとき|原因は記録だった

正直に書きます。この構成で一度、全体が読めなくなりかけました。
きっかけは、複数の担当を同時に走らせて、本番のサイトに書き込ませたことです。同じ場所に別々の内容が入り、後から見てどちらが最後に書いたのか分からなくなりました。
ここで重要なのは、本当に困ったのは競合そのものではなかったということです。競合を避ける方法は、書き込む担当を1つずつにすれば済みます。技術的な回避策は他の解説記事に詳しく書かれています(後述)。
本当に困ったのは、「誰が何を変えたのか」を追えなかったことです。おかしくなった箇所を見つけても、どの担当のどの作業が上書きしたのかが分からない。だから戻す先が決められない。分業は、担当が並行して動くぶんだけ、記録が無いと壊れます。1人でやっていれば自分の記憶で追えたものが、追えなくなります。
いま置いているルールは単純です。
- 担当が何かを変えたら、1件1行で記録を残す
- 同じ場所に書き込む担当は、同時に1つまで
- 調べるだけ・読むだけなら、並行して構わない
1つ目を軽く見ないでください。分業を増やすほど、記録の価値は上がります。担当が1つなら記録がなくても何とかなりますが、4つになると誰も全体を覚えていません。
ここは他の記事のほうが詳しいです
この構成を作るにあたって、すでに詳しく書かれている論点がいくつかあります。当社より詳しい解説があるものは、そちらを読んだほうが早いので、正直に挙げておきます。
- 司令塔に重い作業を持たせない理由|調査や大量の読み込みを担当に渡すと、司令塔側が整理された状態を保てるという話。技術系の解説記事で詳しく扱われています
- 結果を要約だけ返させる設計|同上
- 同時書き込みの競合を技術的に避ける方法|作業場所を物理的に分ける、ファイルの担当を宣言する等。専門の解説があります
- 担当を増やしすぎたときの限界|規模が小さいと準備の手間が上回る、一定数を超えると管理コストが効果を上回る、といった指摘が出ています
この記事で書きたかったのは、そこではありません。それらを踏まえたうえで、開発ではない会社の業務を常設の分業で回すと何が起き、何が壊れたかです。
そもそもAIエージェントとは何か、最初にどの仕事から任せるかの選び方はAIエージェントとは?中小企業が最初に任せる仕事を「戻せるか」で選ぶにまとめています。
始めるなら、2担当から

最初から4つ作る必要はありません。むしろ、いきなり多く作ると、どれに振るべきか人間側が分からなくなります。
- 繰り返し発生している業務を2つ選ぶ。月1回の業務は選ばない。忘れます
- それぞれに、守るべきルールと参照先を書いた定義を作る。ここが本体です。技術ではなく、業務を分かっている人にしか書けません
- 指示は必ず1か所を通す。直接それぞれに投げると、司令塔を置く意味がなくなります
- 変更を1件1行で記録する習慣を、最初から入れる。後から足すのは難しいです
2番目が最大の作業です。「この担当は何を守るべきか」を言葉にする工程で、自社の業務ルールが実は言語化されていなかったことに気づきます。これはAIの話ではなく、業務整理そのものです。
よくある質問
非エンジニアの会社でもこの形は作れますか?
作れます。難しいのは技術ではなく「担当ごとに何を守らせるか」を言葉にすることです。ここは業務を分かっている人にしか書けません。逆に言えば、そこさえ書ければ形にはなります。
担当は何人くらいが適切ですか?
当社は業務の区分に合わせて4つです。ただし数より「業務の区切りと一致しているか」のほうが重要だと感じています。業務の切れ目と担当の切れ目がずれていると、どちらに振るか毎回迷います。
記録はどの程度残せばよいですか?
1件1行で十分です。いつ・誰が・何を変えたか。詳細な記録を求めると続きません。続かない記録は、無いのと同じです。
まとめ
- 案件ごとではなく会社の業務に合わせて常設の担当を置くと、積み上がる
- 担当に「自分が読むもの」を持たせ、司令塔は個別に資料を指定しない。付け忘れで事故る設計にしない
- その結果、担当を増やしても司令塔の負荷が上がらない
- 壊れかけた原因は競合そのものではなく「誰が何を変えたか追えなかったこと」。分業は記録が無いと壊れる
- 始めるなら2担当から。最大の作業は「何を守らせるかを言葉にする」工程で、これは業務整理そのもの
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テレビ・新聞で取り上げられました
